後遺障害の併合・相当・加重に関する基礎知識

既存の後遺障害部位や今回事故で複数部位に後遺症が残った時、後遺障害等級認定では「併合・相当・加重」という考え方により等級を決定します。
通常の後遺障害認定よりも理解が難しく手続きも煩雑になるため、一般的には弁護士の力を借りて認定を受ける人が多いと言えます。
ここでは、併合・相当・加重に関する考え方について解説します。
既存障害への二重障害又は複数部位への後遺障害に関する3つの考え方
事故により、すでに障害を持っている部分に再び後遺症が残った時や、複数部位にまたがる後遺症が出た場合は、その状態によって3つに分類して等級認定するのがルールとなっています。
一回の事故で複数箇所に後遺症が残った時は「併合」、既存の後遺障害等級表に定めのない後遺症が残った時は「相当」、既存の障害部位に重ねて後遺障害が残った時は「加重」という考え方をし、等級の繰り上げや複数等級の賠償金の差し引き等で調整を行います。
異なる複数部位に後遺障害を負った場合は「併合」で1つにまとめる
異なる部位に負った後遺障害は系列が異なるため、それぞれに対し該当する等級を確認し、2つの等級をルールに基づいて併合して1つにまとめます。
併合を行う際のルール
5級以上に該当する2つ以上の後遺障害がある場合は、重い等級を3ランク上げる
8級以上に該当する2つ以上の後遺障害がある場合は、重い等級を2ランク上げる
13級以上の該当する2つ以上の後遺障害がある場合は、重い等級を1ランク上げる
14級の後遺障害については複数あっても14級として扱う
例えば4級と5級の後遺障害がある場合、重い方の4級が3ランク上がって1級として認定されます。4級と7級の後遺障害がある場合、重い方の4級が2ランク上がり2級として認定されます。5級と11級の後遺障害がある場合、重い方の5級が1ランク上がって4級とされます。
ただし、併合ルールによる等級繰り上げで1級を超える場合は、最高等級である1級として認定されることになります。また、13級と14級の障害がある場合は13級として認定されます。
すでに右腕に障害を持っていた人が事故で左腕にも後遺障害を受けた場合は、2つの等級を併合するのではなく上肢の障害として等級認定されることになります。
等級表に記載のない後遺障害は既存等級に「相当」するものとして考えられる
後遺障害の状態と該当する等級は、等級表で詳しく分類されていますが、一部の障害に関しては記載がないものもあります。
そのような場合、既存の等級に「相当」するものとして認定されることになります。
後遺障害が他の系列に属さないものである場合
等級表に記載のない嗅覚や味覚に関する障害等は、属する障害系列がないことになりますが、その症状から適切と思われる等級が相当として認定されます。
例えば嗅覚や味覚を失った場合は12級とし、嗅覚能力が落ちた場合は14級が相当とされます。この他、外傷性散瞳についても、状態により11級か12級、または14級が相当として認められます。
該当する系列があるものの当てはまる後遺障害の記載がない場合
例えば右足の関節が機能しなくなった場合は8級、右膝の関節に著しい障害が認められた場合は10級と、それぞれについて該当する等級はありますが、2つの障害をまとめた等級は定められてないため、該当するものがないことになります。
この場合、併合の考え方を利用し、重い等級である8級を1つ繰り上げて7級に相当するとします。
同一部位に再び後遺症が残り程度の重くなった場合は「加重」
既存の後遺障害に重ね、事故で同じ部位にさらに後遺障害を負った時、程度が悪化することがあります。この場合は加重という考え方で等級を決定します。
既存の障害も事故起因であったかどうかは関係なく、従来の等級と事故による後遺障害等級を比較し、その差額が加重分として支払われることになります。
例えば、既にいずれかの上肢の手関節から先を欠損していた人は5級とされますが、事故によりひじ関節から先を失った場合は4級となります。
この場合、重い方の4級1889万円が該当となりますが、すでに保険金を受けている5級1574万円を差し引き、残り315万円が実際に支払われる額となります。
複雑な「併合・相当・加重」の理解と煩雑な手続きについてご相談ください
後遺障害が重なった場合の理解や正しい等級獲得には、専門的な知識と先を見据えた行動がとても大切です。
当事務所では通院中から依頼者に対して、一定期間の定期的な通院や適切な通院日数等についてアドバイスし、症状に一貫性があることを念頭に、適切な等級を獲得するためのサポートを行っています。
また医師による診断書作成時には必要に応じて医師に働きかけたり、依頼者が等級申請の条件を満たせない場合の代替策を提案したりもします。
いずれにしても、後遺障害が複数重なる状況は理解と手続きが難しくなりますので、できるだけ早く当事務所にご相談いただければ、大きな負担を軽減する一助となれるかと存じます。