自賠責保険の特徴と補償範囲について解説

交通事故が発生した時、まずは加害者側の自賠責保険を使って治療開始となりますが、その補償範囲は限定的で明確な基準が設けられています。

被害者救済の観点から最低限の補償のみが提供される自賠責保険について、その特徴や補償の仕組み、治療の流れについて解説します。

自賠責保険が補償する範囲

自賠責保険は、法で定められた範囲の補償を提供します。

上限は120万円となっており、この中に治療費や休業損害、慰謝料等の全ての賠償が含まれているのです。

入通院慰謝料については日額に治療日数をかけて算出しますが、治療にかかった全日数か入院日数と実通院日数を足した数の2倍のいずれか少ない日数を採用します。

例えば事故による入院が20日間で、その後の通院期間90日のうち実通院日数が30日間だった場合について考えてみます。

  • 入院20日間
  • 通院90日間(実通院日数30日間)
  • 自賠責の補償(※)は日額4,300円

治療にかかった全日数は、入院20日間+通院90日間=110日となり、入院日数と実通院日数の和の2倍は、(20日+30日)×2=100日間となります。従って少ない方の日数である100日間を採用し、4,300円×100日=430,000円が入通院慰謝料として支払われることになります。

※自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した入院慰謝料については、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した入院慰謝料については、1日につき4,200円です。

なお、自賠責保険の補償範囲は人の傷害のみとなり、物損には適用されないので注意しましょう。

自賠責保険を基準とした後遺障害への慰謝料

自賠責保険では後遺障害の等級に応じて支払われる慰謝料額が決まっています。

また、後遺障害を負ったことにより、被害者は従前の経済的利益を将来に渡り失うことになりますので、これを逸失利益として計算式に当てはめ算出します。

なお、学生や主婦のように賃金を得ていない者については、厚労省の調査データである賃金センサスという基準表から該当する金額を代用して計算します。

逸失利益の計算式

年間収入額×労働能力喪失率×就労可能年数のライプニッツ係数=逸失利益

年間収入額は、事故に遭う前年の収入か、全年齢の平均給与額1年分のどちらか高い方を採用します。例えば30歳の男性が後遺傷害14級と認められた場合について考えてみます。

  • 30歳男性
  • 後遺障害14級
  • 前年の収入400万円
  • 14級の全年齢の平均給与額1年分:415,400円×12=4,984,800円
  • 67歳までの就労可能年数:37年

従って、年間収入額を4,984,800円とし、14級の労働能力喪失率5%をかけ、就労可能年数のライプニッツ係数16.7113をさらにかけます。算出された金額は、4,984,800円×5%×16.7113=逸失利益4,165,124円となり、この場合、自賠責保険の上限額である14級75万円を超えた金額であるため、実際に支払われるのは上限額までとなります。

仮に後遺障害13級の場合では、上限額は139万円になり労働能力喪失率も9%と大きく上がりますから、後遺障害等級申請をしっかりと見据えた治療計画を立てていくことがとても大切になります。

自賠責保険を基準とした死亡慰謝料

自賠責保険(※1)では、葬儀費用と慰謝料、逸失利益を合わせて限度額3,000万円以内で支払われます。

(※1)自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した事故については、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した事故については、葬儀関係費は原則60万円。資料により60万円を超えることが明らかな場合は、上限100万円まで申請が可能です。

葬儀費用は上限100万円と決められています。

死亡慰謝料(※2)は本人分と遺族分の二種類があり、死亡した被害者本人に対しては400万円が、遺族に対しては人数に応じて550万円から750万円の間で支払われます。

(※2)自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した死亡事故については、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した死亡事故については、死亡した本人の慰謝料は350万円です。

遺族として慰謝料請求できるのは、被害者本人の両親及、配偶者及び子であり、請求者が1人では550万円、2人では650万円、3人では750万円と増額していきます。

被害者は死亡したことにより、将来的に得られたはずの経済的利益の機会を失います。

これを逸失利益と呼び、所定の計算式により金額を算出して支払われます。

死亡逸失利益の計算式

基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数のライプニッツ係数=逸失利益

基礎収入額は、事故に遭う前年の収入か、賃金センサスから当該年齢の平均賃金を代用します。

また、被害者死亡により今後の生活費分が控除されるため、被扶養者を1人抱える一家の支柱が亡くなった場合は控除率40%、被扶養者が2人だった場合は控除率30%とされます。

就労可能年数は67歳を基本とするため、30歳で亡くなった場合は37年間が喪失した就労可能年数となり、これに対するライプニッツ係数は16.7113となります。

従って、被扶養者1人を抱える年収400万円の30歳男性が亡くなった場合、400万円×(1-0.4)×16.7113=40,107,120円が死亡逸失利益となります。

ただし自賠責保険の上限金額は葬儀費用等も含めて3,000万円ですから、それを超えた分については任意保険から支払ってもらう必要があります。

弁護士に相談すれば複雑な賠償金計算をスムーズかつ有利に進められる

自賠責保険から支払われる金額を算出するには、被害者本人が生活においてどのような役割を担っていたか立証したり複雑な計算を行ったりして、受け取れる金額がようやく判明するという煩雑さがあります。

被害者及びその家族にとっては非常に馴染みの薄い分野でもあるため、計算を間違ったり十分に主張できなかったりすると、受け取れるはずの賠償金が減ってしまう等の二次的な損害が出てしまいます。

そのような事態を避けるためにも、弁護士に相談してスムーズかつ有利な自賠責保険の活用を行うようにしましょう。

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